すずめの由来
2016年10月「すずめのお宿緑地公園」で、赤ちゃんが置き去りにされたニュースを聞いた時のショックを、すずめ食堂の代表 佐藤さんは、昨日のことのように語る。
赤ちゃんに何かしてあげられることはないかー 近所で起こってしまった悲しい出来事に、矢も盾もたまらず警察署に出向き、せめてミルク代をと申し出たが断られた。
「置き去りになんてしなくても大丈夫だよと、お母さんに伝えたいー」
すずめ食堂は、この時の強い思いがきっかけとなり始まった。
子ども食堂
子ども食堂という取り組みが全国に広がったのはここ10年くらいのこと。
「子どもの貧困」問題が浮き彫りになったのと時期が重なり「貧困対策」のイメージがついてきたが、もともとは「居場所づくり」の意味合いが大きく、全国で1万箇所近くあると言われる子ども食堂の大半が「子どもの食を中心とした地域コミュニティの再生」を目的にしているという。
世代間のつながりができにくい中、地域のおじいちゃん、おばあちゃんとして、自身の子育てが一段落した人たちが、地域とつながっていく。(貧困家庭救済を目的に運営されているところも勿論ある)
核家族化が進み、共働きが進み、働き方が多様化する中で、経済的には裕福であっても、1人でご飯を食べる子どもが増えた。増えたのは、シニアの孤食もそうだ。
人が集い、ワイワイ暖かい雰囲気の中で一緒に食べる、子どもの居場所づくり、コミュニティづくり。
そして、困っている人、ゆとりのない人、子どもの為に時間をつくれない人の止まり木となりたいー
ここ、すずめ食堂は「とにかく子どもが大好き」な佐藤さんの「やりたい!」の一言から人が集まり、あっという間に形になっていった。
大岡山東住区センター
「すずめ食堂」は、月に一回大岡山住区センターの2階の部屋を全て借り切って開催される。
他にも、コロナ禍の制限から生まれたという「ランチクッキング」、「0円マーケット」、お弁当をみんなで食べる「みんなで夕食会」がそれぞれ月1のペースであり盛り沢山だ。
大岡山東住区センターは、すずめのお宿緑地公園の道を挟んだお隣り。
食堂が開くのは、午後6時から7時50分までだが、当日は3時過ぎからスタッフが集まり、料理学習室で調理が始まる。買い出し担当、洗い物担当、野菜切り係、デザート担当、調理はプロの調理師さんが毎回来てくれる。幅広い世代のスタッフが和気あいあいと準備をする姿が目に浮かぶ。
食事をする部屋はふた部屋。料理学習室でも食べられるし、隣の和室も親子連れが何組か。スペースに余裕があるので、ゆっくり食べることができる。
そのほか二つの会議室が、食後の遊びの部屋として開放され、小さな子たちは大きな学習室でダンスを踊ったり、黒板に絵を描いたり、自由気ままに過ごす。
もう一つの会議室は、もう少し大きい子用。人数が揃うとカードゲームをしたり、学習室にもなる。
今月訪問させて貰った時は、キャンセルがあったとのことで、シチューとサラダ、デザートの手作りプリンを大変美味しく頂いてきた。特にデザートの手作りプリンは、今日日なかなか出会えない自然で優しい味わいだった。
どうやったらつながれる?
赤ちゃん置き去り事件の年のクリスマス会から始まったすずめ食堂は、2018年また居た堪れない思いを噛みしめる。目黒区で起こった幼児虐待事件で命を落とした結愛ちゃん(5歳)は、食事もろくに与えられず体重はわずか12.2kgだったという。
母親も夫からDVを受け洗脳されていたというこの事件、親子の孤立さえなかったら、救えた命だったのではないか。
一番必要としている人達と、一番ギリギリのところにいる親子と、どうやったらつながれるのだろう?そんなことを考えるのはおこがましいのだろうかー
「地域に誰でも来られる場所があって、そこにはちょっとお節介な人たちがいて、話を聞いてくれそうな雰囲気があって、自分も仲間になれそうな風が吹いている。そんなすずめ食堂を開き続けるしかない。」
ここに居場所があるよというメッセージを送り続けるしかないー スタッフ一同で確認し合ったこの思いが常にある。
予約制にはしたが
何度か回を重ねるうちに、月に一度の息抜きの場として利用してくれる常連のママさん達も増え、せっかく来てくれたのに「ごめんなさい、今日の分はもうなくなってしまって」と断らなくてはならないことが増えてきた。
予約制にすると、ふらっと来てひと時を過ごす自由度や気軽さがなくなってしまうだけでなく、予約の手間も増えてしまう。しかし他に手立てもなく、ジレンマもありながら現在はネット予約制にしている。
あっという間に満席となってしまうが、ネットで予約が取れなくても「あきらめずに、問い合わせて下さい」とお世話係で副代表のかじろさん。
お馴染みさんも多いが、新しく来られる方も少なくないようだ。「ぜひしつこくトライして下さい」
連絡先:
suzume.dining@gmail.com
090-8582-7651(かじろ) 「喋るのが苦手な方はショートメールでもOK!」
みんなでつくる
2018年に平町児童館からの提案で始まった、すずめ食堂付属「木よう塾」はおやつ付き、中高生を対象とした週1塾。参加した子どもたちと一緒に、テーマを決めた「おしゃべり以上の討論もどき」が定番のスタイルだという。
「決まりきった勉強をしなくてもいい」
「自分の要求にあった勉強ができる」
植林された杉林ではなく、好きな方向に枝葉を伸ばす「自由に遊べる」雑木林ー こんな嬉しい感想が参加の子どもからも出る。
食堂も同様に集まった人たちが「それぞれできること」が形になっていく。
行政のバックアップも企業・団体・個人からの寄付も、そして新しく参加する人たちも、敷居の低さや、暖かな手作り感に安心して参加できているようだ。
「校区に一つあるのが理想」とかじろさんは言う。
確かに、歩いてすぐの距離にあったら、さらに気軽に立ち寄ることができるだろう。
実際に訪れてみて、装飾係だったらできるかなとか、子ども相手に簡単なリース作りをやってみたいなとか、想像が膨らむ。家の近所でできたら尚いいだろう。
すずめの涙ほどのささやかな営みという意味もあるー と佐藤さん。
中学校教員を定年まで務めあげ、車椅子の母親と一緒に見上げた青い空。
子どもが大好きだった母親が「やりたいことをやれ」と背中を押してくれたことも大きなきっかけだった。「子どもはかわいそうなんだよ」が口癖だったという佐藤さんの母上は、大人の都合に振り回され、与えられた運命を否応なしに背負わなければならない子どもたちを「守るべき小さきもの」と考えておられたようだ。
今は青い空の上から、すずめ食堂の躍進を嬉しく見守られているに違いない。
すずめ食堂の会 〈公式HP〉*食堂の予約はこちらから
https://suzumeno.wordpress.com
ご支援他・お問い合わせ
https://suzumeno.wordpress.com/contact/
目黒区の子ども食堂 (目黒区のHPに紹介)
https://www.city.meguro.tokyo.jp/kosodateshien/kosodatekyouiku/kosodate/syokudou.html
目黒区で活動している女性たちの取り組みを紹介した冊子。
佐藤さんが自ら綴った「すずめ食堂」の取り組みも紹介されている。
くるくると巡る思いが、生き生きと書かれ、筆者が佐藤さんを取材するきっかけとなった。
坂のある街で 〜地域で活動する女性たちのあゆみ〜
目黒地域女性史研究会 編・著
執筆者:佐野みと(めぐろ区民ジャーナル 編集委員)
めぐろ区民ジャーナルは、いろいろな区民の取り組みをご紹介していきます。
ぜひ情報を、またご意見他お寄せください。
megurojournal@gmail.com