目黒区長選挙2024 候補者ロングインタビュー
西崎つばさ 氏
プロフィール
1983年11月、目黒区生まれの40歳。
円融寺幼稚園、向原小、目黒九中、都立青山高、東京外大英語科を卒業。
目黒雅叙園勤務の後、手塚よしお秘書、蓮舫秘書を経て、目黒区議2期、東京都議を1期務める。
家族は、妻・長男(9歳)・次男(6歳)・三男(4歳)・保護猫2匹。
ビールと野球と猫が大好物。
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目次
国会議員秘書・区議・都議として
――西崎さんは経歴として国会議員秘書をされてたんですよね?
もともと地元の手塚仁雄の秘書を3年間やって、その後1年間蓮舫の公設第一秘書をやっていました。
――秘書の仕事として、国会の中の仕事として質問の準備などをされてたわけですか?
そうです。公設第一秘書の立場で質問作りのサポートをしていましたので、様々な資料を集めたり、省庁の役人の話を伺ったりしていました。
――国会議員ではなかったとしても、国の中枢の省庁とのやりとりや、国会議員とのやりとりをたくさんされた経験をお持ちなんですね。
その時の経験が、議員になってからも非常に活きています。
――その後目黒区議を2期務められて、都議を1期3年されてきました。国、都、そして地方自治体と、行政の全ての段階を見てこられた、なかなか希有な経験をお持ちだと思うのですが、その中で、地方行政と都や国との違いなど感じたことはありますか?
それぞれ全く別物という感覚がありまして。それぞれ守備範囲や予算が違いますので。
その中で、区議会議員の仕事が一番自分のやりたい仕事にあっているなと感じました。
もちろん予算規模は国や都と比べたら小さいですが、地域の人々の課題に対して一番しっかり向き合えるし、また区役所の職員も同じようにそれに向きあっているなと感じますし、なのですごく深い議論が議会でできるという経験をしました。
――都議をしている時に、都議会から見た目黒区という点でなにか感じたことはありますか?
区議時代から感じていたのですが、東京都が決めた制度が区の実態に合っていないとか、補助金や予算を都から区に配分したとしても、区にそれを実行する余力がなかったり、人的余裕がないということを、改めて感じました。
東京都が見ている方向と目黒区が見ている方向が違うなというのを強く感じました。
区長選に立候補した理由
――では、今回区長選に出馬しようと思い立った時期、そしてその理由をお聞かせください。
そもそも、政治の世界に飛び込もうと高校生のときから思っていまして、大学時代にいろいろな議員事務所のお手伝いをしていくうちに、その思いを強くして今でも変わらず続いています。
当初から、目黒区長を目指すというのは大きな目標としてありまして、目黒区をよくしていく、自分たちの町をよくしていくというのを考えた時に、国会議員よりも自治体の首長というのは決定権を持っているわけですから、思い描く理想の社会にしていくために目黒区長として様々な施策を進めたいという思いを一貫して持っていました。
国政も都政もそうですけど、既存の政治に対する不信感が非常に強くあるというのは、多くの方から聞いています。
目黒区の5期20年続く体制を、今変えるのを逃してしまったら、またこのあと何年もこの枠組みで続けられるのではという危機感を持っていまして、自分がチャレンジをしなければという思いで立候補しました。
―――高校生の時に政治に興味を持ったきっかけは?
父が学生運動をやっていたような人で、小さい時から政治社会のことについて自然に家庭内で話し合う環境があったんです。
自分で中学生、高校生になって社会の勉強をするなかで、いろいろおかしなことがあるなと感じるようになりました。
一番の変化は、高校3年生の時に9.11のテロの事件がありまして、その後様々な戦争が関連して起こりましたけど、やはり戦争はいけないと、世界平和を目指したいと率直に思いまして。
高校生だったので短絡的ですけど、そのためには社会に広く影響を与えられる仕事がしたいということで、シンプルに政治家になりたいと思って、今まで続いているわけです。
――大学卒業後、一度民間会社に就職されていますよね?
自分が目黒で生まれ育ったので、ずっと目黒に関わりたいと思っていて、民間での社会経験を積みたいということと、目黒の会社で働きたいということで目黒雅叙園に就職しました。
雅叙園での仕事は営業で、地域の団体・町会や企業を訪問していましたので、希望通り目黒の地で働く経験を積ませていただきました。
子ども最優先
――では、政策についてお伺いします。公約には子ども最優先と書かれていますが、具体的なアイデアとしてどのような施策をお考えですか?
子ども最優先というのをまず掲げさせていただきました。
これまで目黒区では「ゆりかごめぐろ」という妊娠期からの取り組みがありますが、これをさらに強化させて「子育て丸抱え体制」として全ての子育て家庭に一つ一つ寄り添っていく、相談や日常的なコミュニケーションまで一貫してパッケージとして支えられる仕組みを作りたいと思っています。
参考にしているのは和光市の「子育て支援ケアマネジャー」です。
和光市は介護のケアマネさんのように、子育てについて一人一人に最適なプログラムを組んで提供するサービスをやっています。
ワンストップで必要な支援を届けられるので、目黒区がどーんと支えていきますよというのを打ち出していきたいです。
現状も断片的にそれぞれ支援事業はあるんですけど、有機的につなげていく仕組みをつくって目黒区で子育てするのって安心なんだと思ってもらえる体制をつくっていきたいと思っています。
――似た例として、お隣の世田谷区では子育て支援コーディネーターという支援職があって、子育てひろばに常駐して機動的にサポートする民間の支援員です。これは事前の研修制度があって、人件費もちゃんと出てるんですが、こういった仕組みを作るということですね。ですが、現状、目黒でこういった支援を担える人材といってもすぐにはいないですよね?
たしかに、そういった人材をどう確保していくのかは課題だと思います。
目黒区で丸抱えするのか、民間で担い手を探すのか、両方もあると思いますが、どちらかというと、目黒区で公的なところで人材を抱えていくのが理想かなと思っています。
一方で子育てひろばはすでに目黒区の各地にありますので、そういったリソースを洗い出すことも必要だと思います。
――行政はこういった支援事業について、相談窓口をやたら作りたがるんですよ。相談窓口ももちろん必要ですが、当事者にとっては伴走支援してくれる人が必要なんです。
世田谷区以外でも、横浜市や名古屋市など都市部の自治体では地域のNPOがその役目を担っているので、目黒でも地域の力を活用していただきたいと思います。
児童相談所の設置について
――児童相談所の設置について、目黒区が設置することを重要視されていますね。
目黒区は都の品川児童相談所の管轄で、都の児童相談所と区の児童相談所は、一義的には役割は同じですけども、位置づけは明らかに違うものであると思っています。
広域行政が行うものより基礎自治体が行うものの方が、地域の学校や保育園や病院との連携がとりやすいです。
これまで児童相談所というと保護者からすれば敵対する存在のように思われがちだったものを、区が主体となることで、より子育て家庭を支えていくものだという位置づけにしたい。目黒区でもぜひ実現したいと思っています。
もう一つは、東京都との権限争いがあって、大田区は区立の児童相談所を設置する計画でしたが、東京都が圧力をかけてゆさぶってくるので、撤回したんですね。
確かに、財源も人材も区として支えるのは大変だと思いますが、どっちの方が子どもと子育て家庭に寄り添えるのかといえば、絶対に区立児童相談所の方だと譲れない思いでいます。
これまで児童相談所は都道府県と政令指定都市に設置義務があったものが、2016年5月の児童福祉法改正により特別区も設置できるようになりました。
2020年に世田谷区と江戸川区、荒川区が設置。その後2023年までに港区、中野区、板橋区、豊島区、葛飾区が設置。
都の品川児童相談所は品川区・大田区・目黒区を管轄しますが、そのうち品川区が2024年10月に区立児相を設置予定で、当初大田区も2026年に区立児相を予定していましたが、計画が変更になりました。
――目黒区では来年度設置される家庭支援センターに品川児童児談所のサテライトオフィスを誘致して、区の家庭支援との密な連携を図り、2031年度には区内に児童相談所を作る計画をしています。現状、目黒区はこの児童相談所を区立にするのかどうか明言していませんが、おそらく都の児相に目黒に来てもらうことを想定していると思います。都の児相との密な連携では足りないとお考えですか?
(参考資料:https://www.city.meguro.tokyo.jp/documents/3914/01_0603siryou.pdf)
私は足りないと思っています。
やはり目黒区が独自に設置してしっかりやっていくべきだと思います。
――特別区が独自で児童相談所を設置する場合、児童相談所の業務以外に保育園の設置認可をはじめ16の事務を合わせて担う必要があり、目黒区の児童相談所設置準備室の試算では100人程度の区職員の増員が必要といわれています。
児童相談所は人口20万〜100万人に1ヶ所設置という基準がありますが、人口28万人の目黒区にそれだけの人材と予算を確保できる余裕はあるとお考えですか?
※児童相談所の数字についてご指摘をいただいたので修正しました。(2024.4.15)
それはやるべきだと思いますし、そのために東京都と財政調整の協議をしているわけですから、しっかり求めていくべきだと思います。
目黒区が独自で児相をしっかりやるんだと明確な意思表示をして、その分東京都は予算が浮くわけだから、その予算を目黒区に回してくれということです。
これはすでに他の区もやっていることですから、それに目黒区も名乗りを挙げて、しっかり東京都に物申していくという姿勢が大事だと思います。
――目黒区が出している資料(前掲のPDF資料)にも書いてありますが、児童相談所を設置すればそれで大丈夫ということではなくて、ハイリスクの事案を担う児相につながるように、家庭支援センター、そして地域の支援のネットワークが網の目の様に張り巡らされて子どものセーフティネットが作られていることが重要です。
しかし目黒区では特に不登校支援や若者支援が非常に遅れています。民間の支え手も少ないです。それを活性化していくにはどうしたらいいとお考えですか?
現在でも少ないながらもそれぞれで活動している団体があると思いますが、これまで以上に支援をしていくことで活動を広げていっていただく。
東京都の子育て支援員の研修もありますし、地域で人材を育成していくことが大事だと思います。
ネットワークづくりというところでは、民間NPOの支援を拡充していくことが重要だと思っています。
ジェンダー平等について
――ジェンダーギャップの解消を実現するために、具体的にどのような施策をお考えですか?
ジェンダー平等については、あらゆる区の施策についてジェンダ―ギャップが潜んでいないか、アンコンシャスバイアスがないか点検していくということが根幹だと思います。
それこそ、道路の整備や交通施策であったり、そういうところにもジェンダーギャップが潜みうるものですので、職員の研修も含め、あらゆる施策にそうした視点を行き渡らせていきたいと思っています。
ジェンダーギャップ:男女の違いにより乗じる社会格差のこと。毎年、世界経済フォーラムが、指済・教育・政治・保健の4分野の指標を用いて『世界ジェンダー・ギャップ指数』を出している。
アンコンシャス・バイアス:無意識の思い込みや偏見のこと。ここでは、これまでの生活や経験から身に付いた無意識によって、気付かずに女性に格差を生じさせていないか意識的にチェックすることを指している。
非正規改革について
――先日、東京新聞で、自治体の45%が非正規雇用の職員に対して賃上げ差別をしているという報道がありました。(https://www.tokyo-np.co.jp/article/319119)
目黒区で取り組むべき非正規改革について具体策を教えてください。
民間の非正規の対策はなかなか目黒区で切り込んでいくのは難しいと思うので、区役所としては会計年度任用職員(=非正規職員)の方々をどう位置づけるのかというのが重要だと思っています。
長年必要であるとわかっている仕事を同じ会計年度任用職員の方を上限までずっと働かせて、また続けてもらうのであれば、(注:会計年度任用職員の任期は最長1年で、2回まで更新ができる。2回の再任用後は再度求人に応募し選考を経て採用される。)だったら正規職員でいいんじゃないの?と。
(雇う側としては)経費がかかるから非正規に流れがちですが、必要な仕事があるなら正規職員がやればいいのであって、世間では賃上げであったり、雇用の正規化が求められているわけですから、区役所が率先してやるのはあるべき姿だと思いますし、社会の要請に応えるものであると思っています。
コストの問題はありますが、眼に見える数字を削りすぎて犠牲になっているものもあるのではと思っています。東京都のスクールカウンセラーの問題(東京都教委が250人大量「雇い止め」https://www.tokyo-np.co.jp/article/313234)もありましたが、それで一番困るのは区民であり子どもたちです。
――今のお話は、区役所が直接契約している非正規職員についてのお話でしたが、行政が民間に委託する事業、保育所であったり児童館であったり、また介護職の方達であったりの待遇改善まで踏み込めますか? 公営だったものが民営になる理由の一番は行政コストの削減です。コストを絞って民営にするのですから、民間事業者が雇うスタッフの給料は公務員に比べて低くなりがちです。
トータルで行政サービスの質が上がるというのが大前提だと思うんですね。
それでいて、コスト削減をするというのは、現場の方の待遇を下げるという意味で負担を押しつけになっていますから、そこは処遇の改善は目黒区として考えるべきだと思います。
――公的サービスに関わる現場で、末端の人は結構安い時給と低い待遇で働かされてる人がたくさんいます。
当然、どこまで出せるのかというのはかなり慎重に検討していかなければならいですが、それはやっぱり今の世の中がおかしいと思うんです。
区が自らワーキングプアのような人たちを生み出していかないようにしなければならないと思います。
区民センターの再開発について
――区民センターの再開発について。公約には「一旦立ち止まって再検討」とありますが、これは一旦計画を中止するという意味ですか? どこまでをストップして何を再検討するんですか?
少なくともこのまま7月に公募をして決めていくというプロセスを、性急に進めずに立ち止まるべきだという意味です。
――白紙撤回するわけではないのですね。
まったくゼロに戻すという意味ではないです。
現行の計画で区民の声が反映されているのかという意見はたくさん伺っていますので、中身をしっかり検討しようという意味で立ち止まるということです。
――現時点で今の計画にある問題点はどこだとお考えですか?
区民センターの事業スキームは、渋谷区役所の建て替えのような民間の資金を使ってやるPFI、区役所に必要なスペースを確保した上でプラスアルファで容積の余っている部分を民間に渡して、その費用で建て替え費用を捻出するということになっていると思います。
区役所や公会堂としての機能が十分であったので、余った敷地を活用することに理解が得られたのかなと。今回の目黒区民センター事業ほどの反対の声はなかったのかなと思います。
PFIで民間が利益を出すために公共セクターを削ってしまっているのであれば、これは本末転倒だと思っています。
果たして今検討されている事業が本当に必要なニーズを受け切れているのかというと、そうじゃないから批判の声が上がっているのだと思います。
一方で勤労福祉会館とか、もうボロボロなので建て替えが必要だという認識は持っています。
――区はPFIでやると決めていますけど、場合によってはPFIの手法を見直す選択肢もありますか?
PFIが必ずしもダメで採用しないというわけではないですし、区民の活動ができる施設を確保するというのが一番ですから。
PFIのためにそれを削らなければならないのであれば、PFIではできないことにならないですし、区民サービスが保証できるのであればPFIでやっていいと思います。
聞き手&写真:植田泰(めぐろ区民ジャーナル編集委員)
外遊びフェス「ビオキッズ」実行委員長、映画「あそびのレンズ」プロデューサー、めぐろ子ども子育て連絡会 会員、めぐろあそびばねっと メンバー、そとあそびプロジェクト・せたがや 理事、一般社団法人 日本プレイワーク協会 理事 ほか。
2013年より世田谷区の羽根木公園で外遊びをテーマにした野外フェス「ビオキッズ」を主催。世田谷における民間発の外遊び啓発事業として成果をあげる。 2013年よりボランティアグループ「マンマの会」(現在はNPO法人 マンマの会)と共に目黒区柿の木坂に子育てひろばcoccoloを開設。めぐろ子ども子育て連絡会や、めぐろあそびばねっと など、目黒区内で子ども・子育て支援の活動を続ける。 本職はグラフィックデザイナー。